第五十三段 おびただし

梅蔵ちゃんがゲロリンを始めた。
どこに?
って、「自分の足」に。

普通は、鏡に映った自分の姿に、とか、水道の蛇口に、とか聞くのだが、 何でかうちのヤロウは自分の足にゲロを吐いている。

なんでこうなったかと想像するに、 きっかけは多分、愛する恋人「ふうりんちゃん」にもぐもぐしていた時(演題その五十四参照)、 自然とゲロがこみ上げてきたのだろう、 「おっと」と足で受けようとして、そのまま止まり木に足をついてゲロ続行、と。

このモーレツ野郎がゲロなんか始めるとどうなるか。
それはそれは恐ろしい結末が待っているのだ。

今までもよく食べる奴だったが、ゲロを始めると加速度的に餌が減るようになっていた。
我々も一応人間で、一応仕事があって生活があって、 24時間梅蔵のそばにいてやることは当然できないので、 「お留守番」させざるを得ないこともある。
留守番自体、梅蔵自身もやぶさかではないようだが、 1日留守番させると、入っているごはん全部、あればあるだけゲロにしてしまうのだ。
アミ下に落ちてしまったゲロは拾い食いしようにもクチバシが届かない。
我々の帰りが遅くなると、大変腹を空かせた鳥が大騒ぎしてる、という事態が起こるのである。

「鳥は1日食べないと死んでしまう」
諸説あるが、あながち大げさな話ではあるまい。
出かけてそのまま朝帰りなんてしてようものならと思うと、想像するだに空恐ろしい…。

結果的に、うちの梅蔵は「お留守番ができない」鳥なのである。

当然飼育者は一泊の外泊すら許されず、以来どこに行くにもカブトムシハウスごと鳥をつれて歩くハメになってしまった。

通院の日、止まり木ゲロだらけのハウスを見て不振に思われたのか、お医者様に聞かれた。
「…この子、どこに吐き戻しを?」
「自分の足に。」
「……、ああ……(哀れむ目)。」
足を取るわけにいかないしねえ。
それは止められないわねえ…。

大 変 な 鳥 だ 。