第五十五段 ならはし
しつけについて。
犬飼いの頃の知識なのだが、しつけには「陰性訓練」と「陽性訓練」がある。
乱暴に言ってしまえば、「陰性訓練」は体罰も含めた厳しいしつけで、「陽性訓練」は褒めておだてるしつけである。
しつけをされる側の性格などもあるし、どちらが良い、悪いとは一概に言えないのだが、
少なくとも「陰性訓練」は、即効性はあるのだろうが、
「怖い」から「言うことを聞いているフリ」を促してしまう可能性が高い。
「熱が出たら解熱剤」と同じで、根本的な解決にならないのだ。
その点、「陽性訓練」は本人が言うことを聞くと「楽しい」と思わせるようにしつけていくので、
しつけが長続きするのだが、相手と共通言語がない場合、大変根気が必要な訓練法なんである。
で、うちの梅蔵の場合。
ガブを覚え始めた頃に、飼育本に書かれているように「クチバシをつかんで毅然と怒る」
をやってみたのだが、私はすぐに「これはうちの梅蔵には合わない!」と気づいた。
梅蔵は「自分は正しい」と信じて疑わない性格で、また「怖いもの知らず」である。
「悪くない」と思っているのに嫌なこと(=体罰)なんてされたら、逆上してますます噛みつくだけだ。
それに、よく見ると、構って欲しくて、振り向いてほしくて、その手段としてガブをしているのだ。
梅蔵の立場に立ってみれば、構って欲しくてガブをしているのだから、
こちらが「イタイ!」「ダメ!」と大声を上げれば、
「振り向かせる」という目的は達成されたことになり、
そのあと掴まれる行為は、梅蔵にとっては全く関連性がないことである。
だから、逆ギレしてますます噛みついてくる。
そこに気づいてから、どんなにガブをされても努めて「無反応」を装った。
困った梅蔵ちゃんは、いろんな方法を試してくる。
そこで偶然「ほっぺたをクチバシで押す」など好ましいことをした場合、
仕事中だろうがなんだろうがものすごく大げさに振り向いて構ってやった。
犬の「陽性訓練法」と同じである。
これを何度か繰り返すうち、「私に構ってもらう」には「クチバシで押す」ことだと学習していき
、無事噛みつくことはなくなったのである。
「ダメ」という人間語を正しく鳥語に変換する方法がない以上、その言葉が相手にどう捉えられるかは賭けなのだ。
「ダメ」と言ってクチバシをつかむ行為を勧めるしつけ法は、
それが有効な場合もあるだろうけど、そうでない場合はとても不幸な結果をもたらす、
リスクの高い方法なのではないだろうか。
この頃、梅蔵にガブされていちいち叱っていたダンナは、
今でもこのように、梅蔵に「構わんかい」ガブをされている。
いや、今となっては「ボケとツッコミ」の名コンビにまで成長した。
ガブもあながち悪いことではない。
※最近は鳥の世界でも「ほめてごほうびをあげるしつけ」があちこちで聞かれるようになりました。
ですが、鳥は犬以上に個性的な生き物、
どんなしつけ方法が効果的なのかはその子の性格によって随分違うように感じます。
「クチバシをつかんで毅然と怒」ったほうがいい子もいるだろうし、
クリッカーなんて興味のない子はいっぱいいるだろうし、
ましてやうちの梅蔵におやつなんか与えたら頭からぶら下がるばかりでとてもしつけにならないし(泣)。
犬は基本「喜んで欲しい」心理が働くのでもう少し分かりやすいですが、鳥のしつけって本当に難しいと思います。