第三十六段 おもひまがふ

目をつぶる、の続き。

毎日毎日、梅蔵ちゃんを捕まえては目薬を差す日々。
しかも一日三回とくれば、 いいかげん避けられるというもの。
反抗期も手伝って、 最近ではダッコも拒否、 さわらせてすらもらえなくなってきた。
目薬をきっかけに アンタッチャブルインコになってしまったと言っても過言ではない。
あんなにベタベタだった梅蔵ちゃんが。
不本意である。

あるとき、 ハウスにいる梅蔵ちゃんをボーッと眺めていて、
ふと気がついた。

「あれ?」

「頭ごと、いってる??」

新しいハウスで、 梅蔵ちゃんが止まり木に頭をこすりつけている。
鳥は「クチバシを研ぐ」ために止まり木にクチバシをこすりつけたりするそうだが、 うちの梅蔵は、頭ごと研いでいる。

「軟膏の目薬は、べたべたするから、 鳥が足で目を引っ掻いてしまい、 目にバイ菌が入って、返って悪くしてしまうことがある。」
と、お医者様が言われていたことを思い出す。

軟膏を使用していなくても、 何かの原因で外部から継続的に目にバイ菌が入って感染を起こしているとしたら、 「返って悪くしてしまう」ことが起こるのではないか。

そういえば、 新しいハウスにしてから、止まり木だけは洗っていない。
あの、モーレツな頭のこすりつけ様…、
ひょっとして、止まり木のバイ菌が目に入って、 炎症を起こしているのかも?

すぐに止まり木を外して洗って、熱湯消毒、 ついでにえさ入れも水入れも熱湯消毒したところ、 あれほど治らなかった目が、 2日とおかず、あっさり治ってしまった。

おそらく最初は軽い感染だったのが、 常にハウスにいることもあり、顔をかく手段が止まり木しかなく、 汚れた止まり木に顔をこすりつけているうちに、どんどん感染していったのだろう。
そこで抗菌剤や免疫を上げることをやっていても、 あとからあとから常にバイ菌が入り込んでいたので、 完治に至らなかったものと想像できる。
人工太陽光線も、目薬も、効いていなかったのではなく、 むしろ、対処していたからこそ、 全身症状に陥らずにすんだのではないか。

ついでにダンナが、 仕事場に梅蔵専用プレイスポットを設置した。
バーベキュー用の網を両口クリップで机の端に留め、 割り箸をナナメに差して、先端に梅蔵の恋人・ふうりんちゃんをつけたものだ。
これはずいぶんとお気に召したようである。
特に、絶妙に面取りされた割り箸の先端が、 顔をかくのに大変都合がよかったらしく、 以後、前ほど止まり木で顔をかかなくなった。

度を知らない梅蔵ちゃんは、顔をかくのも力ずく。
「もしもし?血ぃ出ませんか?」とつっこみたくなるくらい激しい。(実際出した…)
止まり木でもこの勢いで顔をかいていたのかと思うと、 さぞバイ菌も力いっぱい塗り込めていたに違いない。

免疫を超える感染もある、と学んだ貴重な経験である。
いろいろに、感謝。