第二十六段 むつかる
そろそろ、カゴに引っ越しをさせてやりたいと思った。
どうしてもケースでは手狭だろうし、
止まり木はないし、
まあ、夏もド真っ盛りで保温も問題なさそうだし、
(むしろ暑すぎないか、という論点で飼育者同士がケンカをしている)
尾羽も生えてきたし、
もうカゴで暮らしても良い時期なんじゃないか。
指の上に乗った梅蔵ちゃんを、そっとかごの中に入れて入り口を閉める。
きょとんとする梅蔵ちゃん。
しばらくして、カゴ外にいる私のところに近づいてきて、
私の手に乗ろうとするが、
網が邪魔して、来られない。
何度もトライするが、来られない。
これが相当機嫌を損ねたらしい。
カゴに入れてそろそろ半日経つというのに、
一口もごはんを食べないのだ。
カゴの入り口から手を入れて、
ごはんを口に運んでやるのだが、
一切食べない。
手のひらに入ってきて、体ごとスリスリ押しつけてくる。
甘えている…というか、
これは、ハンストではないだろうか!?
「いや、ここで負けては、一生カゴで暮らせなくなる」
と思ったものの、
この食いしん坊が半日一粒も口にしない、
その怖さにあっさり負けた。
根負けしてカゴから出したが、まだごはんを食べようとしない。
一粒ずつ指先でつまんで口に運んでやって、ようやく食べ始めた。
本鳥も半日食べてなくてお腹がすいているもんだから、食べる食べる。
満腹になるまで、あの小さいマメを一粒ずつ口元まで運ばされたのだった。
どうやら、子供の頃から「壁(透明)」のある生活だったので、
カゴの意味が理解できず、
こちら(人間)にさわれるのに、行けない、というのが、
たいへんシャクにさわったようだ。
でも、「見えるのに行けない(例えばガラスとか)」というシチュエーションは理解しているので、
「カーテンを閉め忘れたガラス窓に激突」という事故は、
これまで一度もない。
ダテに長年プラケースに住んでいるわけではないのだ。
後日、通院の際、事の顛末をお医者様に話したところ、
「この食いしん坊が食べないなんてねえ〜」
と、驚かれた。
やっぱり?